「紙・姿・詩」展 トークレポート

こんにちは。Up & Comingです。
5月19日(日)に行われた、第2回展覧会「紙・姿・詩」のトークの模様についてレポートします。

今回のトークはアーティストの豊嶋康子さんをゲストに迎え、出品作家のイヘリムさんがご登壇されました。
トークでは主に、「自然素材」「裏面と側面」「支持体」「日常」の4つの項目について取り上げながら、イさんの作品やおふたりの制作について話し合われました。

イヘリムさんは自ら漉いた手漉きの紙を用いた作品を制作しています。紙漉きは、植物の繊維などの自然素材を煮出して細かくしたものを水に溶き、層のように重ねて乾燥させることで紙を作る手法です。その制作方法と、イさんが関心を持っている「土地に積み重なる記憶」や「無くなったり消えていくもの」とを関連付けて作品を制作しているそうです。

大学院で紙作りに興味を持ったイさんは、日本各地の和紙の産地を訪れて調査を行なっていました。和紙の産地のひとつである埼玉県小川町のレジデンスに参加した際に、選考委員をされていた豊嶋康子さんと出会いました。イさんがご自身の作品と豊嶋さんの作品に多くの共通点を感じたことがきっかけとなり、今回のトークにお招きしたようです。

おふたりの制作の中で特に共通している点として、「日常から作品を作る」という点が挙げられました。

イさんは現代の社会で、誰によって作られてどこから来ているのか分からないものが増えている状況を問題視し、自分が「知らない」ということに慣れてしまうと身の回りに意識が向かなくなるのではないかと危惧しているそうです。そのため、日常の中の自分が知っていることから制作に取り組みたいという思いがあり、自身が住んでいる場所に目を向けた作品シリーズを展開させてきました。

イさんの過去の作品のモチーフには工事現場の風景が多く登場します。街中に存在していていつの間にか姿を変えていく工事現場の風景を、イさんは「土地の積み重なったこれまでの歴史や私の『記憶』」を象徴するものだと捉えており、それは「忘れていくことに対して無神経になりたくない」という考えとも関係しているとのことです。
日本の工事現場は、透けている仮囲いの幕に建物が覆われてその中で工事の作業が行われますが、今回展示中の作品《Air Scenery #grid3》はそうした工事現場の様子から着想を得た作品です。自分で撮った写真を何層にも重ねて合成した写真データを出力し、その上に手漉きした薄い紙を層のように重ね、下にある写真を透けさせることで街の変化を表現しています。

《Air Scenery #grid3》

一方の豊嶋さんは、サイコロ、鉛筆、卵の殻といった身近なものを用い、社会の制度に疑いを向けるような作品を制作しています。豊嶋さんの作品では日用品を大量に敷き詰めて並べたり、繰り返す表現手法が多く見られます。ものを反復し積み重ね、強調することで生まれた化学反応や熱量によって観る人の「共感」を呼び、繋がりたいという思いがあるそうです。

いくつもの日常の風景と紙の層を重ねて「結合」させることで、土地に積み重なる記憶を表現するイヘリムさん。日用品を反復させて作品化することで日常とアートと「結合」させ、新たな景色を生み出している豊嶋さん。お二人とも「結合」させる行為と、「日常」というキーワードを重視していたことが印象的でした。

今回のトークでは他にも、おふたりの制作への向き合い方、素材や支持体に対するアプローチなど深く掘り下げたお話をお聞きすることができました。
ご来場者からの質疑応答もあり、1時間半のトークは和やかに終了しました。

flickrでは、今回のトークショーの様子や、そのほか過去に開催した展覧会の様子もご覧いただけます。 

2024年6月6日(木)小野坂

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