「SIGNIFICANT BAGATELLES」トークセッション レポート

こんにちは。Up & Comingです。

本日は9月15日(日)に行われた、第4回展覧会「SIGNIFICANT BAGATELLES」のトークセッションの模様についてレポートします。

今回のトークセッションは藤田まりさんをゲストに迎え、出品作家の上村可織さん、草野温子さん、立岩有美子さん、橋本若葉さんが登壇されました。

まず初めにゲストの藤田まりさんの自己紹介があり、次に橋本さんから本展のテーマとタイトルについての紹介、次にそれぞれの作家紹介、最後に展覧会全体を振り返る流れとなりました。

ゲスト・藤田まりさんについて

藤田まりさんは東京芸術大学Diversity on the Arts Project 特任助手を務め、アートを介して人と人、人と場所を繋ぐ取り組みを行なっています。

「SIGNIFICANT BAGATELLES」とは

続いて、展覧会の企画者である橋本若葉さんが本展のテーマとタイトルの意味について紹介しました。「バガテル(bagatelle)」とは「ちょっとしたこと」「些細なもの」を意味し、転じてクラシック音楽では「小曲」を意味する言葉です。小さなことの中にこそ個性や真実味があるのではないかと考える橋本さんは、この「バガテル」をキーワードに展示を行いたいと考えました。
参加を呼びかけたメンバーは全員、大学時代に交流の深かった同級生です。他の皆さんは「バガテル」という言葉を知らなかったそうですが、「意味はよく分からないけれど語感が面白い」と意見が一致しました。そこであえて作品のテーマは限定せず、「バガテル」をそれぞれが解釈して作品を持ち寄ることに決めたそうです。

橋本若葉さんの作品について

次に、作家4人それぞれの作品紹介と藤田さんとのクロストークに移りました。
橋本若葉さんは自身が実際に見た植物のある風景を、貼り合わせた紙やアクリル板など、様々な素材に描いています。

橋本若葉 展示風景

「バガテル」を「ちょっとしたジョークのようなもの」と捉え、その要素は作品タイトルに表れています。
例えば《全然そっとしてない》や《謎熱とその離れ業》など、ユニークなタイトルが特徴的です。作品を観た人には、タイトルからあれこれ自由に想像して欲しい、そしてどんなことを連想したか教えて欲しい、と話ししていました。

《全然そっとしてない》橋本若葉
《謎熱とその離れ業》橋本若葉

藤田さんは橋本さんの描く植物について、それぞれが自我を持って好き勝手にのびのびしていて、ただの「モチーフ」を超えた意識が感じられると述べました。
これに対し橋本さんは、「植物画」にならないように意識していると答えました。植物それぞれが関係している様子を描きたいという思いがあり、植物を人だと思って描いているとのことでした。

上村可織さんの作品について

上村可織さんはフォトグラファーとして活動しています。写真を撮る上で、被写体が内包している生命を写したいという思いがあるそうです。2023年に出産を経験してから制作に大きな変化があったそうですが、本展の出品作品からはその変化が分かります。
出産以前は、異次元的な世界や宇宙など、外側の世界に関心が向けられていたとのこと。
例えば《space girl》では、撮影と加工を繰り返す手法で非日常的なイメージが鮮やかな色彩によって表現されています。

《space girl》上村可織

一方、出産を経てからは写真の記録性に着目し、上村さんのお子さんを撮影するようになります。
かつては、家庭的で「ふつう」なことは退屈だと感じていた上村さんですが、子育てでめまぐるしい毎日の中で家庭的なことに目を向けるようになり、今しかない日々を残しておきたいと思うようになったのだと言います。

《lump》上村可織
《ゆめ》上村可織

藤田さんは、作品からは作者と赤ちゃんの間にある静かな時間が感じられると述べました。
これに対し上村さんは、赤ちゃんが動き回って簡単に撮れないので、撮影現場は実は大騒ぎなのだと答えました。そうした様子が作品に表れていないのは、プライベートなことを作品に曝け出すことにまだ抵抗があって模索している最中だからだとも話していました。

草野温子さんの作品について

草野温子さんは幾何学図形をモチーフに、彫刻の「全体と部分」、「地と図」の関係性に着目した作品を制作しています。
例えば《リバーシブル(ひまわりと線路)》の作品では、側面と底面の紋様の地と図(物質がある部分とない部分)が反転しています。

《リバーシブル(ひまわりと線路)》草野温子

作品の図案を考えるに当たって、草野さんはエクセルの表計算ソフトでのドローイングを行っています。描き溜めたドローイングの中から、シンプルでよく見かけるようなかたちを選んで図案を決め、立体化しているそうです。

                     







                  エクセルによるドローイング 草野温子

作品は歩き回って鑑賞されることを想定しており、移動して観ることで作品の地と図の関係が変わっていきます。そこには、観る人によって決定される要素があって欲しいという狙いがあるそうです。

藤田さんは作品を鑑賞するとき、自分と作品との接点や取っ掛かりを探すことが多いそうです。草野さんの《リバーシブル(ひまわりと線路)》の作品では、タイトルを知ったことで親近感が持てたと述べました。
それに対し草野さんは、題材をそのままタイトルにする場合と、見た目の印象から身近なモチーフになぞらえたタイトルをつける場合があり、その判断がいつも難しいと話していました。

立岩有美子さんの作品について

立岩有美子さんは、異質なものを組み合わせることで生まれる驚きや、ものの本来の意味を変えることに関心があると言います。これまで、オブジェやコラージュ、パフォーマンス作品など様々な表現方法に取り組んできましたが、出産を経験してからは「日頃煩わしいと感じることも含めて楽しみたい」という思いで作品を制作するようになりました。

立岩有美子 展示風景

展示中のインスタレーション作品《Quiet Living》では、額や粘土、急須、玩具、レコードプレーヤーなど様々なモチーフが組み合わせられ、食卓を思わせる空間を作り出しています。藤田さんはこの作品について、毒のある世界観でありながらも鑑賞者の中の「知ってる」という感覚にはまるところがあると述べました。雑然とした様子が、楽しいだけではない色々なことを含めた日常の風景を連想させると言いました。

《Quiet Living》立岩有美子

立岩さんは子育てで忙しい日々について、家を中心に人生が回っていて縛られていると感じるときもあるとのこと。しかし抗っても仕方がないため、その感覚を楽しさに変換するように今回制作したと述べました。

本展を振り返って

それでは「SIGNIFICANT BAGATELLES」とはどんな展覧会だったのでしょうか。それぞれの作家紹介の後に、本展を振り返る流れとなりました。

今回の展覧会メンバーには共通点がありました。それは、4人ともしばらく制作から離れていたという点です。それぞれ仕事や子育てが忙しかったり、描けない時期があったりと、ブランクがありました。それでも企画者の橋本さんはメンバーを信頼し、各々の作品について打ち合わせをせずに持ち寄ってもらったと言います。

そうした中で行われた今回の展覧会について藤田さんは、さまざまなメディアの作品一堂に会し、個性が調和し合っていて楽しさがあったと述べました。
また来場者からは、フランス語で「わちゃわちゃしている」といった意味がある「バガテル」というタイトル通り、まさに作品同士がおしゃべりし合っているような展覧会だったという意見もありました。普段はそれぞれの生活を送っている同世代の女性たちが、久々の展示を機に定点観測的に集まり、作品を通じて近況を報告し合っているようだったとお話ししていました。

今回のトークセッションでは、メンバーそれぞれの生い立ちや学生時代の作品、現在の制作など、幅広いお話を聞くことができました。
学生時代から変わらない部分がありながらも、仕事や出産を経て自身の中で変化したことがそれぞれの作品に反映されていることが印象的でした。
たとえブランクがあっても、制作との向き合い方を模索しながら制作活動を再開させていく姿勢は、制作と生活の多様なあり方を示しているかのようでした。

2時間のトークセッションは、談笑を交えながら打ち解けた雰囲気の中終了しました。

flickrでは、今回のトークショーの様子や、そのほか過去に開催した展覧会の様子もご覧いただけます。 

2024年10月24日(木)小野坂

Contents

Related Artists

Contents