「明日は生まれたてだから」展 ギャラリートークレポート(ゲスト:佐藤直樹)

こんにちは。Up & Comingです。

本日は1月31日(土)に行われた、第15回展覧会「明日は生まれたてだから」のギャラリートークの模様についてレポートします。

ゲストに多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授の佐藤直樹さんを迎え、出展作家の安藤綾さん、合田有希さん、藤瀬碧央さん、まさだ すずみさんの計5名が参加しました。トークは合田さんが司会を務める形で進行されました。

多摩美術大学グラフィックデザイン学科を卒業された作家の4名は3、4年次に佐藤さんのクラスを受講していたそうです。

展示について

「明日は生まれたてだから」は、当時転職活動をしていた安藤さんが、就職について佐藤さんへ相談した際に、「転職よりも展示をやらないか」という予想外の返答があったことをきっかけに動き始めました。

佐藤さん(画像:左)と安藤さん(画像:右)

安藤さんは、4年次の9月ごろに参加したグループ展をきっかけに喋るようになったという合田さんを真っ先に誘い、すぐに承諾してもらえたそうです。
次に安藤さんが声をかけたのが藤瀬さんでした。在学中は話したことがなかったというお二人ですが、お互いの共通の知人に紹介してもらうことで、卒業後に親交を深めたそうです。
まさださんは、合田さんから声をかけたそうです。3年次にまさださんの作品を見てからずっと気になっていたという合田さんから、卒業間際にコンタクトを取ってみたと当時を振り返りました。

(画像左から)安藤さん、藤瀬さん、まさださん、合田さん

展示の開催決定は会期開始の約1年前でした。学生時代の経験から、個展を集めたような展示にはしたくなかったという4人が言葉を交わす中で、せっかく1年もあるのだから時間軸を共有して、それぞれが日々どう過ごして、どんなものを作ったのかが分かるような「ドキュメンタリーのような展示」にできないかというアイデアが生まれたそうです。

会場風景|1F

ここで展示空間の様子を簡単に説明します。
2024年12月から2025年11月までにつくられた作品と月ごとのカレンダーが、会場1Fから2Fにかけて順番に配置されます。
それぞれの作家には色が割り振られていて、カレンダーに貼られたそれぞれの色のシールと、作品を繋ぐそれぞれの色の糸を照らし合わせることで、誰がいつ何を作ったのかが分かるようになっています。

ステイトメントと色の割り振り
カレンダーと糸

ここで佐藤さんから「早い段階で展示のコンセプトが決まったとしても、その時点で実際に展示される作品(であったりその原型)が手元にひとつも無いことは不安にならなかったのか?」という質問がありました。
合田さんの「学生時代に特別親しかったわけでもないが、お互いがどんなものを作るのかはなんとなく分かっていた」という前置きがありつつ、具体的にはメンバー間で共有されていた「大きな作品を作るというよりは、日々小さな創作をするタイプ」「文章を書く人たち」といった認識や信頼が、そういった不安を和らげていたようです。

搬入前に一度だけ、それぞれがつくった1ヶ月分の作品を持ち寄り、安藤さんのご自宅の壁を使ってシミュレーションを行ったそうです。
実際に会場で設営をしてみると、作品が一番多い月と少ない月が隣接するなど、横方向(時間軸上)の粗密が生じてしまいましたが、「ドキュメンタリーのような展示」という部分に立ち返って、あえてバランスを取りすぎることはしなかったそうです。

会場風景|2F
会場風景|2F

佐藤さんから見た「明日は生まれたてだから」とUp & Coming」

ご自身もデザイナーとして活躍される中で「作品づくりをしているわけではない」という認識を持たれている佐藤さんは今まで、デザイナーとして展示や個展をやろうと思ったことは無かったそうです。「デザインはどこで役に立ってどこで機能するか、という部分が自分にとって一番大事なものだから、それを切り取ってしまう意味が分からなかった」と語りつつも、Up & Comingの運営委員という立場でもある佐藤さんは、「この場所をファインアート系の卒業生だけでなくデザイン系の卒業生にも認識、利用してもらいたい」という思いを持っていたそうです。
安藤さんに今回の話を振ってみたものの「どうするのかな」「失敗したらしたで仕方がない」といった「無責任な考えを抱きつつ会場に来てみた」と告白をしながらも、「あまり見たことのない新しさを感じられて、すごい面白かった」と安堵の表情を浮かべられました。

佐藤さんはこの展示について

・著名な人が過去を振り返る形で作品を時系列順に構成するような展示はよくあるが、この展示は進行形で、明日の話をしているのが新鮮で面白い。

・(学生時代に特別親しかったわけではないという)その距離感も自分が感じている新しさのひとつかもしれない。密なグループでやるとお互いが分かり合い過ぎてしまっていて、鑑賞者が入り込む余地がなかったりする。

・大学を卒業して数年しか経っていない「(これから)どうしていこうかな」とかを考えている人たちの、(評価を気にし過ぎずに)自然体を出したことで、他に見ない着地をしている。

といった感想を述べられました。

安藤綾さんについて

安藤綾 展示風景
安藤綾 展示風景

学生の頃から「自分の等身大より大きいものを作りたくない」という気持ちが強くあったと語る安藤さんは、授業での「大きくてインパクトのある広告を作る」ような課題は辛かったと振り返ります。そういった点では今回の展示メンバーを「自分の体験をもとにしたものを作る人たち」だと捉えているそうです。

安藤さんは会場に設置された自由に書き込める紙に残されていた「ミクロだね」という感想に共感を示しました。合田さんからも、構想段階に「虫の目」という展示タイトルの候補があった話が上がり、些細なものに目を向けるような視点がコンセプトの根底にあったことがうかがえました。

安藤さんは、鑑賞者を置いていく展示にならないよう、作品だけでなくカレンダーを配置することによって、たとえ内容に共感できなかったとしても、それぞれが過ごしてきた時間というひとつの共通項を設けたかったそうです。

大学時代から写真を撮り続けているという安藤さんは、佐藤さんの授業では撮った写真を本にまとめる、ということに取り組んでいたそうです。今回の展示でも写真と日記を制作されました。

安藤綾 展示風景


合田有希さんについて

合田有希 展示風景

現在デザイン系のプロダクションに勤めている合田さんは、「ちゃんとした制作は卒業制作以来だった」と話しました。今回の展示に向けて制作をし始めた当初は、仕事で行うコピーライティングやデザインのように「評価されなきゃ」といった仕事的な脳の使い方をしてしまい、「日記のような文章をぽつぽつと書いていきたい」という構想は早いうちに決まっていたものの、それをどういう形で文字として起こすのか頭を悩ませたそうです。

また、佐藤さんが担当した卒業制作について話す中で、幼少期に買ってもらえなかったおもちゃが欲しすぎて、自分で作って遊んでいたことを「原始的な体験」として振り返り、そういった渇望のような欲求が創作においては大事なのかもしれないと話しました。

合田さんは「働きながら作品をつくる」ということを約1年続けてみた結果、「(企業の人間としてでなく)自分の言葉として書いたり作ったりする、そういった場所を感じると共にそこでしか息が出来ない瞬間があることに気がついた」と話し、「無理矢理にでもそういった場所を作っておかないと自分が死んでしまうかもしれない」と思ったそうです。

合田有希 展示風景
合田有希 展示風景

藤瀬碧央さんについて

就職活動をしていた時期の作品が多いため「全体的に暗い」と自身の作品を表した藤瀬さんは、作品を作っている自分と就活をしている自分が別の人なのではないかという感覚があったそうです。ポートフォリオを見返してみた際に、今までの作品が「自分寄りすぎて企業に見せられない」と感じてしまい、エントリーする企業がない / したいと思えないことで躓き、落ち込んでしまったと振り返りました。
これを受けて佐藤さんは「そんな時期のそんな言葉が、こんなふうに進行形で記録されるなんてことはなかなか無い」と、稀有なドキュメンタリーになった要因のひとつとして捉えました。

今回藤瀬さんは、技法や媒体にこだわらない様々な作品を制作されましたが、基本的には文章を先に考えてからつくられるそうです。時系列後半の作品では企業でデザインすることでの心境の変化などが綴られています。

まさだ すずみさんについて

まさだ すずみ 展示風景

この展示の誘いを合田さんから受けた時点では、今やっているアルバイトが決まっていなかったというまさださんは、藤瀬さんの作品に共感する部分も多かったと語ります。1年という時間をかけて作り上げる展示に誘ってもらったことで「来年生きる目標ができた」と感じたそうです。

まさださんは4年生の頃、美術を目指すことになったきっかけであるアニメーションの背景画を描く現場に行っていたそうです。そこで働く人を目の当たりにしながら、実際にやってみたところ「練習してそれっぽく描くことはできても、自分の絵ではないかもしれない」という感覚になったそうです。

今回の展示では主に切り絵の作品を制作されましたが、現在も自分がアプローチしやすい表現方法を探している最中だそうです。
佐藤さんは「今は変化がとても多い時代なので、いちいち評価されなくてもいいから20代のうちに時間をたくさん使って、やってみたいことをたくさんやってみるのはすごい大事なことで、この展示ではそういった部分が晒されているのが気持ちいい」と話しました。

まさだ すずみ 展示風景
まさだ すずみ 展示風景

さいごに

合田さんはここまでの話や今回の展示を通じて、「評価されるために完成品をどんどん作るのではなく、むしろそこに行くための「考える」「やってみる」といった過程を豊かにすることが大切なんだと気がつけてよかった」と話しました。

展示企画が立ち上がる意外なきっかけや、作家同士の馴れ初めなどの裏話に加え、学生時代の様子を知る佐藤さんが感じたことなどを通じて、「ドキュメンタリーのような展示」としての奥行きを広げるようなトークイベントだったのではないでしょうか。

会場外観

Up & Comingのflickrでは、今回のトークの様子や、今までに開催した展覧会の様子もご覧いただけます。 
また、YouTubeチャンネルでは過去の展覧会の動画を公開しています。「明日は生まれたてだから」展の紹介動画もアップロード予定です。

また、現在Up & Comingでは2026年10月〜2027年9月に開催する展覧会企画を募集しております。(3月15日〆切)
詳細は下記リンク先よりご確認ください。

2026年3月6日(金)長嶋


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