こんにちは。Up & Comingです。
本日は10月4日(土)に行われた、第13回展覧会「Blurred Boundaries」のゲスト対談の模様についてレポートします。
ゲストにトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)の遠山きなりさんを迎え、出展作家の大﨑土夢さん、古賀義浩さん、細井えみかさん、陳為榛(チェン・ウェイチェン)さん、通訳の福田慧さんを加えた計6名が登壇。トークは遠山さんがそれぞれの作家に話を伺うかたちで進行されました。

遠山さんはこれまで京都芸術センターやなら歴史芸術文化村でアートコーディネーターとして活動し、現在はTOKASで勤務されています。アーティストと日々関わるなかで、展覧会で作品として見られる部分だけでなく、作品が生まれるまでのプロセスや作家の生活の中にある興味や気づきに触れられることに面白さを感じていると話しました。
当日も「普段から作家さんに質問しながら仕事をしているので、今日もそんな気持ちで皆さんのお話を伺っていけたら」と語り、自然体かつ丁寧なスタイルでトークが進められました。
展示について
遠山さんの自己紹介のあとには、今回の展示を企画された古賀さんから「Blurred Boundaries」展がどのようにつくられていったのかという説明がありました。今展は古賀さんが最近気になっていたり、影響を受けたりしている作家に声をかけるかたちで進められたそうです。

大﨑さんとは、2023年に福岡アジア美術館で行われたアーティストインレジデンスの期間中に、県内で開催されていたアートブックイベントにて作品集を見かけたことをきっかけに知り合ったそう。チェンさんとは、福岡アジア美術館でのレジデンス時期が重なり、スタジオをシェアしながら制作や外出を共にするなかで親交を深めたそうです。
細井さんは今回のメンバーの中で古賀さんと最も長い付き合いがあるものの、これまで展示などで直接関わる機会は多くなかったとのこと。「細井さんの作品が4人の作品を繋ぐような気がして、今回はキーパーソンとして参加してもらいました」と古賀さんは話しました。

今回の4名の出展作家に共通する問題意識として、「デジタルと身体性」「日常の風景と既製品」といったキーワードが挙げられます。たとえば大﨑さんとチェンさんはデジタル的な要素を取り入れ、チェンさんと細井さんは日常の中の風景や既製品を素材や要素として活用しています。チェンさんが視覚的な捉え方で作品を構成しているのに対して、細井さんはより身体的な扱い方をしているなど、それぞれの作家が異なる視点を持ちながらゆるやかに交差しています。
このように、はっきりと繋がっているわけではないものの、どこかで共鳴し合うような関係性の中で作品を展示することで、お互いの作品がこれまでと違って見えたり、自分の中になかった興味や視点が刺激されるような機会になることを期待して本展示は企画されたそうです。


続いて、それぞれが今回どのようなことに取り組んでいるのか説明し、遠山さんが質問を交えながら話を深めていきました。
大﨑土夢さんの作品について
「制作についての制作」をテーマに取り組んでいるという大﨑さん。大﨑さんは、普段はいくつかのシリーズを設けてそれらを同時進行で制作しているそうですが、今回は新しいシリーズとして《バーナム効果の絵画法#1》を制作しました。

タイトルにある「バーナム効果」は、占いなどに見られる「誰にでも当てはまる言葉を自分のことのように感じてしまう心理現象」のこと。大﨑さんは、絵画にも似たようなものがあるのではと考え、本シリーズの制作に取り組みはじめたそうです。
画面には多くのモチーフや要素が散りばめられていますが、それは自身の興味や関心がそのまま反映された結果だといいます。「世界で起こる事象や現象への知的好奇心を理解するために、絵画を一度通してみよう。そういう風なやり方で世界をみていこうと思って絵画を使っている感じです」と語るように、大﨑さんにとっての絵画は世界を考えるための方法でもあるようです。
「散布考」について


大﨑さんがしばしば用いる「散布考」という言葉は、スプレーの「散布」と「考える」を掛け合わせた造語とのこと。「画面の中でさまざまな事象が散らばっている状況があって考えていく感じ」と説明しました。また、大﨑さんの作品には、制作過程での見えないルールがいくつも設定されているそうです。絵画のルールや、自分で設けたルールの中でがんじがらめになりながら制作をし、それによって残ったものやシンプルな答えに辿り着くとのこと。

大﨑さんは、作品をシリーズとして積み重ねていくこともそのルールの一部であり、作品を通じて自らが設定した枠組みと向き合い続けていると話しました。
細井えみかさんの作品について
彫刻と日常生活のあいだを探る作品を制作する細井さん。細井さんは、家具やインテリアなど、日常の中にある物との彫刻の間のようなジャンルを開拓しようと、日々実験的に制作しているそうです。今回は、取っ手の金具やテーブルの脚など「なにかになるはずの部品のひとつ」を取り入れ、布やファーボールなどの異素材を組み合わせた作品を展示しています。


細井さんは、鑑賞者が自身の作品を見た際に「(たとえば3Dで出力した犬の鼻を見た時に)昔犬に追いかけられた経験のある人は『あの時追いかけられたわ』みたいに思ったりとか。犬を飼っている人だったら『うちの犬今まだ寝ているかな』とか。」展示の場が、そうした個人の生活に根付いた経験を思い出すような場になるといいなと話しました。

《Motion》シリーズについて
話題は、今回出展している《Motion》シリーズへとつづきます。このシリーズのタイトルには、鑑賞者が動作を連想できるような意図が込められており、たとえば《Motion – Eating》では折りたたみテーブルの脚を用い、テーブルの脚を開いて「食べる」動作を想起させるようにしているとのこと。


他にも、意図しないところで「掴む」などの動作を連想してほしくてカバンの取っ手を使ってみたりなど、「これをこう使ったら全然ハンドルに見えなくて装飾っぽく見えるかも」というものをあえて選んだり、素材選びの基準も少しづつ変わってきていると語りました。
陳為榛(チェン・ウェイチェン)さんの作品について
チェンさんは、ふだん台湾をベースに活動するアーティストです。今回は主にタイルとデジタルで描かれたドローイングなどを組み合わせた作品を出展しています。

タイルという素材が持っているネット/グリッド状のパターンは、インターネットの網目構造やデジタルデータのグリットを連想させるもので、タイルという「リアルに存在する素材を使いながら、実在しない仮想的なデザインを配置する」ことを考えて制作したとのこと。今回素材に選んだタイルは台湾の街並みに日常的にあり、幼い頃から自身の生活と切り離せない存在だったといいます。今回の制作の背景には、そうした懐かしさや恋しさも含まれていると語りました。
3Dアプリを使用して制作したデジタルのドローイングは、もともと制作の途中で使っていた手法であり、制作過程で作られたものだったそうです。今回の展示では、そうした制作過程にあるドローイングそのものを見せることを試みたそうで、今後もデジタルドローイングを組み合わせた制作を続けていきたいと話しました。


街の見え方
チェンさんの話が終わると、大﨑さんと古賀さんから「チェンさんには街がどのように見えているのか」という質問がありました。
「街のタイルとか道路の線とか、“見えない線”がイメージとしてみえてるのかな」という大﨑さんからの質問に対して、チェンさんは散歩をしながら細部を観察することが好きで、街を歩く際には建築のブロックや路面の模様など、ささやかな形の組み合わせを常に頭の中で想像していると話しました。

古賀さんも「(チェンさんにとっての)街がグリッドに見えてるみたいな感じっていうのは、僕もちょっと確かに思っていて」とコメント。チェンさんが福岡でのレジデンス時に制作した《点字ブロックベンチ》を例に、「単なるマテリアルとしてではなく、それ自体が持つ機能みたいなのも含めてものや街をみているのでは」と話しました。地面にあるはずの点字ブロックが立体として浮かび上がる感覚や、本来踏むはずのものに腰が触れたりする感覚など、チェンさんならではのおもしろい視点だと話しました。

古賀義浩さんの作品について
家族の個人史を手がかりに、彫刻作品やインスタレーションを制作する古賀さん。今回は、祖母から聞いた話をもとに制作された作品を展示しています。

実家がセメント工場を営んでいるという古賀さんですが、もともとはそれとは関係なく単純に素材の面白さにひかれてセメントを素材に制作を続けてきたそう。しかし近頃は、高度経済成長とその後の産業の衰退という大きな時代の流れの中で、セメントという素材が単なる建材ではなく、時代や土地の記憶そのものとして感じられるようになったと話します。

風景をつくるイメージで制作した《三太郎峠》
床が一段上がっている展示空間は舞台のようで、物語性を持つ今回の作品を配置するのにぴったりだったと話す古賀さん。セメントという素材の存在感が強すぎると、鑑賞者が物語へ没入する妨げにもなり得るため、今回は素材の印象をあえて薄め、「風景をつくる」ことを前面に出したかったと話しました。


また、制作の参考にしたものとして、大﨑さんの「散布考」を挙げました。モチーフを配置し、ゆるやかに関係が生まれる絵画的な見方におもしろさを感じ、彫刻作品でもやってみたいと考えたそうです。散りばめられた要素が別の文脈を呼び起こすようなつながり方は、今回の作品でも新しい試みとして取り入れた部分だと話しました。

ゆるやかな繋がり
今回はゲスト対談という形式で、それぞれの制作スタイルや、普段どんなことを考えているのかといった個人的なエピソードを聞くことができたトークイベントでした。それぞれの作家の興味や考えには、はっきりと繋がっているわけではないものの、どこかで影響し合い、ゆるやかに共鳴している部分があるように感じられました。「Blurred Boundaries」展を通して感じられるそうした関係性は、今回のトークイベントの中でも見え隠れしていたのかもしれません。

Up & Comingのflickrでは、今回のトークの様子や、今までに開催した展覧会の様子もご覧いただけます。
また、YouTubeチャンネルでは過去の展覧会の動画を公開しています。「Blurred Boundaries」展の紹介動画もアップロード予定です。
2025年12月17日(水)小池
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