「歴史は繰り返さないが、韻を踏む:Chronicle Vol. 3」アーティストトークレポート(ゲスト:能勢陽子)

こんにちは、Up & Comingのスタッフです。
第14回展「歴史は繰り返さないが、韻を踏む:Chronicle Vol. 3」11月15日に行われた前期オープニングのアーティストトークについてレポートします。

今回のトークでは、ゲストに東京オペラシティアートギャラリーシニアキュレーターの能勢陽子さんを迎え、出品作家の東山詩織さん、中谷ミチコさん、武田竜真さん、松本奈央子さん、松延総司さん、ヨハネス・シュペックスさんが登壇しました。

武田さんの司会で行われた今回のトークでは、各作家の作品紹介だけでなく、「展覧会をつくること」をアーティスト目線とキュレーター目線とで掘り下げたトークとなりました。
このレポートでは、「展覧会をつくること」に焦点を当てて紹介します。

 

キュレーターがつくる展覧会とアーティストがつくる展覧会

まずは、能勢さんが話していた美術館での展覧会についてです。
美術館で作品蒐集や展覧会の企画をする際には、社会への責任があります。そのため、アーティストの質や時代性、時代性を超えた価値観、社会情勢の中での必然性などを考えてアーティストを選ぶ必要があります。

そういった環境の中でキュレーターが展覧会をつくるとき、キュレーターとアーティストの間には、「選ぶ」「選ばれる」といった力関係が発生してしまいます。

同時期に様々な美術館で、30代くらいの同じアーティストが展覧会で紹介されますが、継続して紹介されるわけではありません。そして、50代を過ぎると個展という形になります。
能勢さんは、そのような状況について、アーティストが消費されているようで嫌だなと思う反面、その一因を日本の美術館の学芸員が担っているのかもしれないと考えるのだそうです。
日本には、美術館だけではなく、アーティスト自身が運営している展示場所もあります。そういった活動についてもっと知られてほしいのだと話しました。

対して、アーティストがつくる展覧会は、学芸員が展覧会をつくる方法とは全く異なります。

今回の展覧会「歴史は繰り返さないが、韻を踏む:Chronicle Vol. 3」は、武田さんが主催するChronicleプロジェクトの一環として企画された展覧会です。
このChronicleプロジェクトは、若手・中堅のアーティストが中心となり、アーティストにとって最善の展覧会を追求するプロジェクトとして立ち上げられました。

初め、武田さんに対してあまり多くを語らないタイプだという印象を持っていた能勢さんは、実際に展示された会場を見たときに、とても丁寧に構築された展覧会に感じたそうです。異なるアーティストの作品並びが繊細で、頭でっかちにつくりすぎるのではなく、アーティストとしてのキュレーションの良さや繊細な感覚があったと話していました。

そういった繊細さには、「展覧会も作品の一つ」として捉えている武田さんの企画への考え方が反映されています。この考え方は、武田さんが普段の制作で行なっている、「一つのテーマを決めてマテリアルや表現方法を集める」ことの延長線上にあります。武田さんは展覧会をつくることについて、「一つの表現したいものに対して作家を呼んでくる」という考え方をしているため、キュレーションとはまた違った感覚を持っているのだそうです。

 

今回の展覧会について

今回の展覧会は、現代の世界情勢や作品上の「反復」「複製」「集合」がテーマになっています。
タイトルである「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」には、全く同じではないものの、似たようなリズムやパターンが歴史に現れるという意味合いがあり、マーク・トウェインの言葉と言われています。

この展覧会のテーマとつながる部分について、能勢さんは次のように展示作品に触れていました。
会場の1階に展示されている中谷さんの作品は、キューブが連なった立体上の反復です。それぞれが夜を閉じ込めたかのような深さを持ち、小さくとも、内側に入り込むととても広大な世界が広がるような作品を展開しています。

左から《夜を固める 蝶々》《夜を固める 雨》《夜を固める 森》《夜を固める 光》中谷ミチコ

そして、中谷さんと隣り合っているアーロンさんの作品は、平面上の反復です。

《chapter 15.43: die selbe Sonne》アーロン・ヘルドリッヒ

 

2階に上がると、東山さんの作品がセーフティスペースとして、内に向かって世界が増殖していくような世界をつくっています。

《Teeth, cushioning material, and checkerboard pattern》東山詩織

 

中央に設置されている武田さんの作品には、装飾的に繰り返されるザクロのパターンが見られます。出身地である天草に関係して、生家で見つかった更紗をテーマに、インド・ヨーロッパ・オランダ・日本と、文化間の中で移動して変容し混ざったものが作品に入っています。

《Pomegranate》《Halftone #51 -Pomegranate-》武田竜真

 

会期が前期・後期に分かれている今回展では、前期に絵や彫刻といった手の跡が残る作品、後期にコンセプチュアル要素の強い作品が展示されました。これは意図的だったわけではなく、武田さんが、作家としての感覚でおもしろいのではと思い配置したのだそうです。

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」後期会場風景1F
「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」後期会場風景2F

 

キュレーションをすること、展覧会をつくること

Chronicleプロジェクトでは、毎回、武田さんがアーティストとしてキュレーションを務めています。
そのようにアーティスト自身がキュレーションをすることについて、松延さんは、過去の展覧会でキュレーターとして行った工夫について語りました。
それは、2019年に松延さんがキュレーターの一人として関わった展覧会「ONLY CONNECT OSAKA」でのことです。5名のキュレーターが参加したその展覧会では、アーティストに一人100点以上の作品を出す制限をかけるという試みをしました。
そうすることで、一つの展覧会に膨大な数の作品が集まります。その搬入や配置、作品管理で生まれるカオスな状況が、キュレーションによる権力が生まれないための工夫でした。

それに対して武田さんは、Chronicleプロジェクトを行う上で特別なことはしていません。
武田さんが意識しているのは、アーティストが負担に感じる部分を担い、謝ることも役目の一つとして自身が裏方に回ることです。武田さんは、自身が呼んだ信頼するアーティストに任せる状況を作ることで、立場が上下せず、フラットにできるのではないかと話していました。

そのため、武田さんが声をかけるアーティストは「友人」という基準ではありません。友人同士での展覧会はおもしろくないという考えから、作品の背景やコンセプトを大事にし、時には話したことがないアーティストに参加してもらうこともあるのだそうです。

プロジェクトの土台を作る武田さんが毎回良いアーティストを選び、展覧会の中で起こる化学反応があるからこそ、プロジェクトを続けていくこと、カタログを作って文章に残して繋げていくことで意味を増していきます。武田さんは、繰り返すことで横のつながりが伸びることも楽しめたらと話していました。

一方で、インハウスのキュレーターである能勢さんは、アーティストと一緒に展覧会を作るときの自身のポジションについて「伴走者」でありたいといいます。アーティストが常に良い作品を作れるわけではありません。能勢さんは、展覧会でアーティストに新作を出してもらうのは賭けではあるものの、化学反応などでおもしろい展覧会にはなっていて、だからこそ新鮮なものができると思っていると話しました。

 

アーティストがつながる場づくり

武田さんがアーティスト活動の中で大切にしていることの一つに「場づくり」があります。
例えば、展覧会を企画することによって生まれる「場」は、一緒に展示をすることで知らなかったアーティストや作品と出会ったり、作品が隣り合うことで新しい空間が生まれたりする、いわば展覧会の醍醐味でもあります。
展覧会の企画はもちろんのこと、武田さんの「場づくり」は、それだけではありません。アーティスト同士のつながりから新しいことが生まれるかもしれないという思いから、ベルリンでバーベキューやピクニックを企画することあるのだそうです。
 
そういった武田さんの活動方法と近いアーティストが、今回でChronicleプロジェクトへの出品が3回目となるヨハネスさんです。ヨハネスさんは、ケルンに自身のスペースを持ち、料理を振る舞うことで人と人とを繋げる活動もしています。今回の展覧会でも、後期のオープニングとしてヨハネスさんは料理パフォーマンスをしました。来場者の目の前でたこ焼きを作って振る舞い、プレッツェルやシュトーレンも準備されたオープニングは、ドイツと日本の交流を象徴するようなイベントとなっていました。

「後期オープニング:料理パフォーマンス」ヨハネス・シュペックス

 

アーティスト同士がつながる「場づくり」を意識する武田さんに対して、美術館では、来館者に対して展覧会をつくる意識が強くあります。能勢さんは、アーティスト同士が出会うことで相手から影響を受けたり、自身の制作から一歩踏みだせたりするきっかけになる場をつくることは、美術館やギャラリーといったシステムの外の世界にあるのかもしれないと話していました。

「場づくり」について、松本さんがアーティストとして感じているのは、展覧会の中で「誰と出会わせてくれたのか」は、自身の作品を変える力を持つことがあるほど大きいということでした。
それは、とても難しく、毎回の展覧会で全てがうまくいくわけではありません。何度も続けている間にあるのかもしれないそういった出会いは、言葉より強さを持って感じることなのだそうです。

この「出会い」というキーワードから、中谷さんはイヴォさんの作品で3Dプリンタを使用した経験について語りました。
イヴォさんはドイツに在住しています。今回出品している作品は、イヴォさんが作った3Dプリンタ用のデータを、中谷さんが多摩美の彫刻学科研究室にあるセラミックの3Dプリンタで複製してつくられました。

《Mimetic Loop》イヴォ・リック


もともと自分の手で作品をつくる作家である中谷さんにとって、3Dプリンタを使用しての制作は自身の選択外にあったことでした。そして、実際に3Dデータや3Dプリンタを扱ってみると、美しい瞬間や物理の不可能性、テクノロジーの可能性といった新しい発見もあったのだそうです。また、それだけでなく、まだ会ったことのないイヴォ・リックという人やその作品を理解をするためにも貴重な機会となりました。
一方で、慣れない作業ではうまくいかないことも多くあり、それすらもイヴォさんの作品コンセプトに回収されていると感じたと話していました。

 

過去のChronicleプロジェクトの紹介

1回目のChronicleプロジェクトは、ドイツ在住の作家、宮原明日香さんと一緒にキュレーションをした展覧会でした。16名の作家が参加したこの展覧会では、200平米くらいの古い病院のプロジェクトスペースを会場として、日本やタイ、イギリスといった様々な国から送られた作品が展示されました。この時には助成金がなく、展覧会にかかった金額のほとんどが手持ちでした。

2回目のChronicleプロジェクトは2023年に開催されました。元ソ連軍東ドイツ資料保管庫という歴史を背負い、2階にアトリエがある文化保護施設が会場で、日本語の「うつす」という言葉をテーマにした展覧会でした。日本語の「うつす」にはいろいろな意味が含まれていますが、コロナ禍を挟んだこともあり、「ウイルスを移す」という新たな意味合いを含んだ展覧会になりました。

3回目に行った展覧会は「2.5」というタイトルでした。そこには、週末3日間だけの特別展のような展覧会だったこと、絵画のジャンルで立体を作っている2.5次元という二つの意味合いがありました。
天井がボロボロで昔のベルリンを感じるプロジェクトスペースが会場で、その建物の2階にはスーパーがありました。

そして、4回目になる今回は初めて日本で行った展覧会で、今後作家を少し増やしてベルリンでの開催も予定しています

このChronicleプロジェクトを武田さんが始めた背景には、ベルリンの展覧会事情がありました。
ベルリンでは、たくさんの展覧会が開催されている一方で日本人アーティストの展示が難しいという現状もあります。そのことなどに対する悔しい気持ちが、企画を始めたきっかけでした。

企画を行う上で最も大変なことは、展示可能な場所探しと助成金を取ることです。
場所探しについては、武田さん自身が歩きながら探すことが多いのだそうです。広さを会場の基準として、単純なホワイトキューブではない空間の面白さも加味しています。それは、Chronicleプロジェクトが場所を持たずに行っているため、アーカイブで見た時に、毎回同じような会場だという印象を避けるためです。

 

アーティストフィーについて

展覧会を企画するうえでは、アーティストフィーが問題になることがあります。
日本ではアーティストフィーを支払わないことが普通になっています。例えば、日本の助成金では、アーティストフィーが含まれることはほとんどありません。
それに対してドイツでは、助成金をもらって展覧会を開催した場合、アーティストが職業として認められているため、必ずアーティストフィーを支払わなければなりません。武田さんがドイツで展覧会の企画をするときに、アーティストフィーがないことで怒られたり、参加しないと言われたりすることもあったのだそうです。

美術館の展覧会では、日本でも必ずアーティストフィーが支払われます。
能勢さんは以前、あるアーティストと展覧会で支払われるアーティストフィーの話をした時に、アーティスト自身の生活に対して考えが至らなかったことに気がついたのだそうです。
例えばゴッホが貧乏な生活の中で制作をしていたというエピソードのように、作家神話のようなものがあります。そういった作家神話に引きずられず、アーティストには謝礼が支払われなければならないのだと話しました。

 

今回のトークでは、展覧会をつくる上で普段なかなか聞くことができない裏話がたくさんあり、アーティストとキュレーターに、どちら側にも今後の活動の参考になる話だったのではないかと思いました。 

今回のトークはアーカイブ動画を公開しています。ChronicleプロジェクトのWEBページでは過去の展覧会の様子を見ることができるので、ぜひご覧ください。
flickrでは、今回のトークイベントの様子や、そのほか過去に開催した展覧会の様子もご覧いただけます。

2026年2月4日(水)堀田

 

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