「マチに穴があいている」展 トークディスカッションレポート

こんにちは、Up & Coming スタッフです。

本日は12月14日(土)に行われた、第6回展「マチに穴があいている」のトークディスカッションについてレポートします。

本トークでは、ゲストに伊藤隼平さん(カフェ・バーなかなかの店主/Studio Cove代表)を迎え、作家の伊藤健太さん、速水一樹さん、ハンス・チュウさん、東山真蔵さん、の5名が登壇されました。

 

展示の経緯と作家紹介

はじめに、ゲストの伊藤隼平さんから自己紹介がありました。伊藤さんは、「なかなかの」というカフェ・バーを運営されており、大学では現代美術の理論や風景について研究されていました。

伊藤隼平さん(カフェ・バーなかなかの店主/Studio Cove代表)

 

次に、展示代表であるハンス・チュウさんより自己紹介とグループ展の経緯の説明がありました。
ハンスさんの出身であるシンガポールと東京の風景はよく似ていて、そうした変化していく大都市にいかに対応するか、ということに関心があったそうです。

ハンス・チュウ《Softer Toys (Stopper, Bracket, Helmet, Ball cock, Brush)》

 

続いて、登壇されたそれぞれの作家が自己紹介と作品の説明を行いました。

東山真蔵さんは、普段はインスタレーションやスカルプチャーを制作されており、今回はサウンドアーティストの方とのコラボ作品を出品しました。デモに参加していた際に持ち運べるスピーカーがあれば良いのでは、と思ったのがきっかけで、いろんな場所にサウンドを持っていくことのできる器、スカルプチャーとして本作品を制作したと述べました。

東山真蔵《Black Flag》

 

速水一樹さんは、作品にルールや偶然性を組み込み、「あそび」を入れることを大切にされているそうです。本展示では、都市の隙間にアプローチする作品を出品されました。

速水一樹《bomb and rolll》


伊藤健太さんは、名古屋を拠点にグラフィックデザインをされており、他のアーティストの方とは少し違った立場だと語られました。出品した作品については、助手として在籍されている大学での、今ある材料や廃材を組み直して新しいものや建築を作る活動の影響があると述べました。

伊藤健太《端材を集める》

 

出品された作品について

展示全体について伊藤さんは、それぞれの作家が用いるメディアが異なり、「街」というテーマに対してグラデーションがでていたと指摘しました。そうしたなかで、近代化によるありふれたフォーマットが都市に入り込んでおり、都市の中にそのフォーマットがどのように取り入れられているか、あるいはどのように変化しているのか、といったことを考えたそうです。

伊藤さんのコメントを受け、それぞれの作家が本展示についての印象へとテーマが移りました。


速水さんは、街と陶器の関連性を発見したと言います。例えば、オンリーさんのタイルは陶器でありつつ建物の外壁など、街の風景の一部のマテリアルとして存在しており、またセラミックの土を用いた陶器はアスファルトの起伏やひび割れに近いと指摘しました。

Onree《Disregarding Angels》


ハンスさんは、ネータン・タンさんのシンガポールの川の水の中から撮った風景から、都市が傷んでいる印象を受け、エコロジーアートに近いと感じたそうです。

NATHAN Tan, HANS Chew《On-Site》


東山さんは、ネータンさんのような都市の傷んでる部分を出す人、速水さんのような都市でどう遊ぶかを考える人、といったように街に対する見方の多様さが印象的だったと話されました。

伊藤さんは、倉知朋之介さんの作品を挙げられました。展示のタイトルを決める際に、最初は都市の余白といったテーマを考えていたそうですが、倉知さんの作品を見て、「街」という言葉が日常や生活に近いと感じ、そのやわらかい言葉のイメージにしたいと思ったそうです。また、ハンスさんらも含め、さまざまな国籍の人たちが集まっていることも展示のタイトルに含まれている、と述べました。

倉知朋之介《トリッピー》

 

展覧会のテーマを振り返って

最後に、本展示のテーマを振り返り、それぞれの作家に与えた影響について語られました。

伊藤さんは、自身の選ぶ言葉について改めて考えるきっかけになったと述べました。言葉を選ぶ時、異質な言葉を選ぶことが多かったが、むしろさまざまなものに変化できるような、無機質な言葉について考えたそうです。そして、そうした言葉は建築や都市といったものに近い、とも話されました。

速水さんは、作品の中でギャラリーの付近で撮影した映像があり、外苑前という新しいものと古いものが混じっている街に興味があったと言います。また、出品されている作品の裾野の広さから、都市の抽象的・普遍的なイメージの広さ、その許容を感じさせられたそうです。

東山さんは、もともとギャラリーだけでなく、様々な場所で展示できる作品を作りたかったそうです。本展示を通し、街の中にある隙間や街に穴が空いていることによって、通常起こらない行動や新しい声の可能性が生まれたりする、ということを考えたと話されました。

最後に、ハンスさんはこの日初めて実物の展示を鑑賞し、その中で、作家の使っている色に共通点を感じたと述べました。

 

全体を通して、「街」という共通点がありながらも、それぞれの作家が異なる視点や考え方を持ってアプローチしていたことが印象的でした。今回のトークでは、そういった異なるものを志向する作家が集まることによって、「街」の「マチ」(奥行き)を感じることができたように思います。

flickrでは、今回のトークイベントの様子や、そのほか過去に開催した展覧会の様子もご覧いただけます。 

2025年2月16日(日)永田

Contents

Related Artists

Contents